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ノウゼンカズラ

ノウゼンカズラのオレンジの花色を美しいと思う。
夕べの雨の名残りを乗せて、夏の日差しに輝いている。

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夕暮れにぽとりと落ちるその花を、少し淋しく見つめながら
母は、父が作った濡れ縁でノウゼンカズラを眺めていた。
お盆の迎え火を焚きながら、いつも、その光景がぼんやり浮かぶ

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遺影の写真をあらためて見つめ
父母の面影を懐かしく探す
在りし日の優しいまなざし、もう、逢えないけれど感じることはできる…

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「おとうさん、おかあさん、わたしは、いつまでもあなたのこどもです。」
こころの中でそうつぶやいて、ぼんやりと面影が滲む
緑の木立に上り詰めて鮮やかに咲き競う
わたしは、その燃えるような花色を今年も胸に焼き付ける

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グラジオラス

グラジオラスって、園芸種の花だけれど、
こうして夏の里山に咲いていると何故かしっくり馴染んでいる
ピンクと黄色が混ざったような色合いが優しくてとても綺麗
どこか和菓子を想わせる上品な花色…

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ひところ、毎年楽しみに夏の尾瀬に通っていた。
ニッコウキスゲ咲く鮮やかな時季には行けなくて、
いつも7月の終わりの尾瀬だった。
始発のローカル線の車窓にひろがる涼やかな朝の景色を、
嬉しさに弾む心で、子どものように見つめていた。
どこまでも続く里山の景色が朝もやの中に流れていった。
一瞬、農家の庭先に、色鮮やかなグラジオラスが咲いていたのを
目の前を流れていった夏の情景を、何故か覚えている。
グラジオラスを見ると不思議とあのさわやかな夏の朝を思い出す。

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ダリア

ダリアの花を見ると、田舎の夏を思い出す。
子供の頃、夏の庭先でいつも見ていた気がする。
いろいろな色の花があったけれど、
バラの花のように鮮やかな深紅のダリアは、太陽のようだと思った。
「なんだか、懐かしい花なのよ」と言ったら、
アイリスは金子みすずのこの詩を思い出すと言った。

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わたしには、思いつかなかったことだけれど、
娘の言葉を聞いた途端に、鮮明にその詩と背景が浮かんだ。
これからは、きっとダリアを見る度に、
この詩と娘の言葉を思い出すだろう。

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    犬    金子みすず
  
   うちのダリアの咲いた日に
   酒屋のクロは死にました。

   おもてであそぶわたしらを、
   いつでも、おこるおばさんが、
   おろおろ泣いて居りました。

   その日、学校(がっこ)でそのことを
   おもしろそうに、話してて、
   ふっとさみしくなりました。 

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名前の知らない花

子供の頃、天狗花と言って、この花を摘んでは、
鼻の頭につけて遊んでいたっけ。
ほんとうの名前は知らないけれど、
庭先に咲いたビビットなピンクの花にやってくる
アゲハチョウをじっと眺めていたことなど思い出した。
草むらに、無造作に咲くその花は、緑と夏がよく似合う。

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黄色い花は、夏の象徴のようなひまわりを思い出す。
子どもの頃、自分の背丈よりも高いひまわりが庭に咲いていた。
背が高いから、わたしは下からしか見上げられなかったけれど、
もるで木のように逞しい花だった。
それが、台風が通り過ぎた翌朝、すっかりなぎ倒されてしまっていた。
逞しく見えてもやっぱり可憐な花だということを知った。
びっしりと黒い種を付けた花芯の、流線型の幾何学模様を
美しいと思って眺めていたことを思い出す。
この花はひまわりではないけれど、ちょっと似ていると思った。

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桔梗

桔梗の花は、日本的で、なんて端正な花だろうか…
紫のその花色も気品に満ちて美しい。
桔梗の花は、とても好きな花だ。

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すっと伸ばした花茎も、いまにもはじけそうな膨らんだ蕾も…
清楚で美しいその花は、夏の野辺に映えるけれど、
白い月にも似合いそうなその花色が素敵だ。

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祖父母の家の庭先にいつも咲いていたのを、
縁側のすだれ越しに見ていた。
打ち水…風鈴…つり忍…
祖母が扇いでくれた、うちわの風の心地良さ
そんな思い出が走馬灯のように巡る。

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この桔梗は、淡いピンク色…
不思議な優しさが漂うのだった。

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ミツバチたちが蜜をもらいに着ていた。

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わたしにとって、眩しい夏は溢れるほどの思い出を連れている
きっと、わたしが夏が好きなのもこんな所に原点があるのかも知れない。

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2009.07.31 Fri l 未分類 l COM(6) TB(0) l top ▲
ねむの花咲く岸辺を歩いた。
合歓(ねむ)の木って、合い歓ぶ木と書く。
ふんわりとやわらかな薄紅色の花が、
風に揺れながら枝いっぱいに咲いていると、
まるで夢見る少女たちのようで、
憧れに胸いっぱいの歓びを囁きあっているような気がする。

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緑の葉陰に見え隠れしながら、木洩れ日に輝いていると
愛らしさに胸がキュンとなる。

涼やかに流れる川べりを埋めるように、
ねむの木の花の道が続いている、山里のこの道
ねむの木通りと名付けようか…

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小雨に咲けば、ほんのりと憂いを含んで
しっとりと想いがほどけていく…
わたしは、ファインダーから目を離し遠くを見つめた。
緑に煙る山あいの谷を、薄紅に染めて
ねむの花は夏を想い、夏を歌っている

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《画像を追加》
北海道には咲かないという、ねむの木
HALさんに、見ていただきたいので、去年の画像ですが追加します(*^_^*)

光に透けて
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枝いっぱいに、淡い花を付けています。遠くから見ると薄紅色の雲のよう…
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枝先が、ゆっくりとしなやかに風に揺れます。こんな風情がとても素敵な花です。
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花の時期は2週間ぐらいですが、一番綺麗な時は、おそらく2~3日ぐらいかもしれません。
去年は、枯れた花がない、一番綺麗な時に見ることが出来ました。
今年は、ちょっと過ぎてしまい、枯れたお花が目立ったので綺麗なところだけ、アップで撮っています。
2009.07.28 Tue l 里山 l COM(6) TB(0) l top ▲
夏草に埋もれるように、ちいさな小川が、さらさらと流れる川辺に
ぽつん、ぽつんと、橙色のノカンゾウの花が咲いていた。

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梅雨の晴れ間に、その花が灯りを点すように輝いていて美しかった。
写真を撮りたいと思って川岸へと降りていいくと、涼やかな川面に、ひらひらと舞うトンボの姿があった。

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「あっ、カワトンボ…」陽の光に透けるべっ甲色の翅をくるくると回すように開いたり閉じたりしていた。細く青緑色に輝く肢体は、とっても綺麗なマッチ棒みたい…
水面は川岸の草を映して緑色に染まっていた。トンボが止まった石の周りは、とろりと溶けるように緩やかな流れが、トンボの影を映していた。

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「なんて綺麗なんだろう…」そう思って、わたしは、何枚もシャッターを押しながら、その美しい光景に夢中になった。

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陽射しが反射する川床には、近くを泳ぐ魚の影やアメンボウの影が透き通るように映っては流れた。
カワトンボは、時々、止まる場所を変えながら、舞い上がってはまた降りてきて、水辺に姿を映すのだった。

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キラキラと水面を流れる光のように、煌めくその姿は、渓流の宝石のような気がした。
いつの頃からか、わたしはトンボにときめくようになったのだった。
こうして、飽かずトンボの飛翔を眺めながら水辺で過ごす時間をいとおしいと思う。

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やがて仲間のトンボたちがやってきて、3匹のトンボは戯れるように川辺に舞った。

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こうして過ぎ行く夏の日々を生きて、トンボたちは命を紡いでいく。
夏草に埋もれた川岸で、一日限りで散って往くノカンゾウの朱い花が、ひっそりと咲きながら見守っていた。

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2009.07.17 Fri l 里山 l COM(10) TB(0) l top ▲
7月2日、とうとう、マーガレットとてっちゃんを、山梨まで送っていく日が来た。
『おとうさん、おにいちゃん、いろいろお世話になり、本当にありがとうございました。』
仕事に出かけていく、主人と長男をマーガレットは、そう言って見送った。
今日は、アイリスが職場の休みを利用して山梨まで送ってくれるので、わたしも仕事を休んで一緒に送ることにした。
てっちゃんは、朝からご機嫌で、名前を呼ぶと、声を立てて反応し、ニコニコとよく笑った。
わたしは、その柔らかなぬくもりや重さを確かめるように抱っこしてあやしていた。
なんだか、急に成長したような気がして、もう、明日から、その成長ぶりをしばらく見れないのが淋しく思えた。
オムツを替えた後、機嫌が良いので座布団の上に寝かしていたら、なんと、てっちゃんは自分の力で体を横向きに起こしてしまった。
「え~!凄い!てっちゃんが、寝返りをうちそうよ!」わたしはびっくりして娘たちを呼んだ。

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『わぁ、てっちゃんが、横になってる!すごい~♪』
娘たちも声を揃えた。てっちゃんは、なんだかご機嫌。

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てっちゃんは、はじめての、チャイルドシートにも、ぐずることもなく、乗ってくれ、一路山梨へと向かったのだった。
途中、食事をしたりして午後3時ごろ山梨に着くと、今度はべビーベットを買いに走る。
アイリスはフル回転だった。やがて、早めに仕事をしまい、パパが帰ってきた。
パパは、嬉しくて、嬉しくて仕事が手に付かなかったらしい。
『今日、子供が帰ってくるんですといったら、親方が、それじゃぁ、今日はもういいから、早く帰ってやれ。と言ってくれたんで帰ってきました。』と、彼は照れくさそうに、人懐っこい笑顔を浮かべた。
あっという間に、日暮れの時間。名残惜しいけれど、わたしたちは帰ることにした。
アイリスとわたしは、何回も、てっちゃんを覗き込んで、「てっちゃん、元気でね。」と声をかけた。
それ以上言うと、涙がこぼれそうだったので、「それじゃ、帰るね。三人で仲良くがんばってね。また、遊びにおいで…」と、マーガレットと彼に言った。

彼は、『お母さん、本当に長い間、いろいろお世話になりました。また、そのうち、遊びに行きますから…』と、言った。
そして、わたしの顔を見つめて、『おかあさんも、さびしくなってしまいますね・・・』と言った。
気のせいかもしれないけれど、わたしには、その時の彼の瞳が涙ぐんで、一瞬、声を詰まらせたように感じた。
なんとなく…初めて、彼と親子になれた気がした。

「てっちゃんが、蚊に刺されるといけないから、送らなくていいよ。」と、言ったけれど、マーガレットと彼は、てっちゃんを抱えて表まで出て見送ってくれた。
わたしもアイリスも「体に気をつけて働いてね。また、三人で遊びにおいで…」そう言うのがやっとだった。
マーガレットと彼は、車が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
角を曲がり、三人の姿が見えなくなった途端、堪えていたものが堰を切ったように、アイリスがすすり泣きだした。
『泣いてしまいました…』アイリスはハンドルを握り締めながら、ポロポロと零れ落ちる涙を片手でぬぐった。
明るく振舞っていたけれど、寂しさをじっと堪えていたのだろう。
「アイリスは、ずっとマーガレットを支えて二人三脚でがんばってきてくれていたものね。ありがとうね。」わたしもそう言って、泣いてしまった。
「また、すぐ逢えるのに・・・やっぱり別れは寂しいね。」 『ほんと、寂しいね…』そんな会話を交わして、今度は泣き笑いになったのだった。

家に帰ってからも数日間、つい、足音を忍ばせてしまったり、マーガレットとてっちゃんが暮らしていた居間を、そっと覗いてしまったりした。
てっちゃんがいた暮らし…それは、わたしたち家族に、愛情と言う絆を思い起こさせてくれた生活だったと気づくのだった。てっちゃん、マーガレット、ありがとう。

昨日、マーガレットから、こんなメールが届いた。

みなさん、お変わりありませんか?
こちらに帰ってきて、早くも1週間が経ちました。
毎日が、バタバタしていて、あっという間に過ぎていきます。
今まで、実家で、ほとんどのことを、みんなに協力してもらっていたことに、
改めて気が付きました。本当に、ありがとうございました。
パパも、良く協力してくれています。
てっちゃんのことも、凄くかわいがってくれています。
だから、安心してください。
また、近いうちに、遊びに行きます。

そして、初めて、小さなガラガラを持ったてっちゃんの写真が、添付されていたのだった。
2009.07.08 Wed l 日々の想い l COM(8) TB(0) l top ▲
マーガレットとてっちゃんが、家に帰る日も近づき、マーガレットは少しづつ荷造りを始めていた。
日曜の昼下がり、そんな姿を眺めながら、わたしは「お茶にしようか?」と声をかけた。
マーガレットは、友人のこいちゃんが、編集・製本してくださった“尾瀬散歩 トンボ物語”を本棚から取り出して、『忘れないように、早めにしまっておかないとね。』と言っった。

この本は、わたしが書いた物語と、こいちゃんの写真とのコラボで出来上がった写真絵本だった。
わたしは物語を書き進めるうちに、この物語を、これから出産し子育てをしていく娘に贈りたいと思うようになっていた。
その想いを知ったこいちゃんが、娘のマーガレットとアイリスの分も製本してプレゼントしてくださったのだった。

自分が書いた物語が、尾瀬の美しい写真を散りばめた素敵な写真絵本になるなんて思っていなかったし、その本を娘に手渡せるなんて夢のようだった。
これも、編集からご苦労を重ねて、試行錯誤で製本してくださったこいちゃんのお陰と感謝の気持ちで一杯だった。
娘にその事を話すと、娘は『本を自分で作ったり、写真を編集したり、こういう事が出来るって素晴らしいね。“あとがき”を読んだらジーンとしたよ。お友達のこいちゃんに、てっちゃんが、大きくなったら毎日この絵本を読んであげます。本当にありがとうございましたと、よろしく伝えてね。』と言っていた。

そして『わたしね、こっちに帰ってきてから、おかあさんが時々淋しそうな顔をしているのが少し心配だったけれど、おかあさんには、お友達がたくさんいるから大丈夫だね。』と微笑みながら言うのだった。

いつも、いつも心配していた娘だったけれど、娘も、わたしのことを心配していてくれたのかと思うと思わず胸が熱くなった。そんな風に思っていたなんて、知らなかった…。

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「向こうに帰ったら大変だと思うけれど、パパと協力して、てっちゃんにいっぱい愛情を注いであげて、一日一日の子育てを楽しんでね。」と言うと、
マーガレットは頷きながら『わたしね。てっちゃんを将来、自分の好きなことを見つけて楽しめる人に育てたいと思っているの。
習い事をさせるとかじゃなく、自然を楽しめる人になれば良いなと思っているんだ。幸い、山梨は自然がいっぱいある環境だから、大きくなったらいろんなところに連れて行ってあげようと思うの。
パパもきっと虫取りとか魚釣りだとか連れて行ってくれると思うんだ。』と言った。

わたしは、思いも寄らない言葉に、ちょっと驚いて「そう、それは、素敵じゃない!
じゃぁ、おばあちゃんが、鳥のことや、樹のことなんかを教えてあげるわ。」と言った。
するとマーガレットは、わたしをじっと見つめながら、
『おかあさん、てっちゃんがいっぱい歩けるようになったら、尾瀬に連れて行ってあげてね。
てっちゃんにイモリの池のイモリやトンボを見せてあげたいの。アイリスとてっちゃんとおかあさんとわたしと、4人で尾瀬に行きたいね。』と言うのだった。

わたしは、嬉しくて胸がいっぱいになりながら、「うん、そうだね。楽しみだわ。その時は、背負子を買って、わたしがてっちゃんを背負っていくわ。」と言って言葉が詰まってしまった。そして、こころの中で「ありがとう」と呟いた。

いつしか、親となり娘たちは母親を越えてゆくものなのかも知れない。
こんな感覚を持ったのは初めてのことだった。
新しい命との出逢いは、どんなことをわたしに感じさせてくれるのだろうと、期待していたけれど、思っても見なかった感動を届けてくれた。
わたしは、この数ヶ月の事を思い返し、マーガレットとアイリスを連れて、尾瀬を歩いた遠い日に想いを馳せたのだった。

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2009.07.07 Tue l 未分類 l COM(4) TB(0) l top ▲
てっちゃんが生まれて2ヶ月あまり、慌しくもほのぼのと幸せな時間があっという間に過ぎ、季節は変わり7月になった。
明日はいよいよ、マーガレットとてっちゃんが山梨に帰る日だ。
最近、表情が豊かになり、あやせば満面の笑顔を浮かべ声を立てて反応するてっちゃんに、わたしたち家族は誰もが、相好を崩してしまうのだった。

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アイリスも仕事が決まり6月半ばから出社しているので、昼間は、マーガレットが、ひとりでてっちゃんの面倒を見ていた。
里帰りしてから、ずーっとアイリスと一緒だったマーガレットは『これからは、家に帰ってからの練習だと思って頑張るわ。』と言っていた。
わたしが仕事を終えて家に帰ると、マーガレットは、家族の洗濯物をたたみ丁寧にアイロンをかけてくれていた。
そんな娘の姿を見ていると、主婦になったんだなぁと改めて思い、山梨に帰ってからもきっと大丈夫と思うのだった。

『おかあさん、今日は、おにいちゃんが夕飯を作ってくれるんだって、さっき電話がきたからご飯だけ炊いておいたよ。』と、マーガレットが言った。
息子は、仕事帰りに、魚市場まで行って、新鮮な魚介類を買って帰ってきた。
『今日で最後だから、うまいものを作ってやるよ。』そう言って、魚をさばき手早く調理を始めた。
マーガレットが帰ってきた時にも、こんな風に作ってくれた。それは息子なりの思いやりなのだと思った。
そして、『向こうに帰ってからも頑張ってね。これで、てっちゃんに何か買ってあげて』と、お祝い袋を手渡してくれたと、マーガレットが、わたしのところに来て言った。
息子もいいところがあるなぁと、わたしは感心した。マーガレットは、『お兄ちゃん、ありがとう…』とても嬉しそうだった。

夫は、『買ってやりたいものがあるんだけれど、探しても見つからない。』とぼやいていた。
夫が買ってやりたいもの…わたしには、何となく判っていた。
「おとうさんが、買ってあげたいものって、天井に吊るしてくるくる回す、めりゴーランドでしょ?」と言うと、夫はびっくりしたような顔をした。図星だったらしい。
わたしは、長男が生まれた時、夫が、かなり大きなメリーゴーランドを買ってきてくれたことを思い出していた。
仕事帰りに買ってきてくれ、家に着くなりベビーベットの上の天井にぶら下げた。
ゼンマイを巻くと、音楽が流れ、短冊のように下がったセルロイドの飾りが放射線状に広がりくるくると回わるのだった。夫はそれを眺め満足そうにしていたことなど思い出した。
「おとうさん、今は、昔みたいなのは無いと思うわ。最近のは、オルゴール付きのコンパクトな物になっているのよ。マーガレットを連れて買いに行った方がいいと思うけれど。」と言ったが、夫は黙って横を向いていた。
その数日後の日曜日、マーガレットとアイリスが、可愛いメリーゴーランドを買って帰ってきた。
「あら?どうしたの?」と聞くと、『あのね、おとうさんが買ってくれたの♪』との返事だった。
早速組み立てて回してあげると、てっちゃんは、じーっと見つめていた。マーガレットは、『おとうさんが、メリーを買ってくれるとは思わなかったわ。探しているものがあるってこの事だったのね。おとうさん、どうもありがとう』と、嬉しそうに言ったのだった。夫も満足そうだった。

アイリスは、『この絵が、てっちゃんに似ていたから…それにてっちゃん、この歌が好きだから、この絵本を見せながら歌ってあげてね。』と言って、「あめふりくまのこ」の可愛い絵本と半そでのベビー服をプレゼントしてくれた。
『アイリスには、本当に、たくさん、たくさんお世話になったね。言葉では言い尽くせないくらい感謝しているよ。本当にありがとう。』と感慨深く言いながらマーガレットは、とても嬉しそうに絵本を開いたのだった。

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わたしからは、ジブリの歌のCDと、「あめふりくまのこ」や「おつかいありさん」などが入った「みんなの歌」のCDを贈った。
『おかあさん、いよいよ、あと1日になっちゃったわ。ああ、今は、帰らなくちゃいけないと思う気持ちが20%で、帰りたくない気持ちが80%よ。おかあさん、本当にお世話になりました。本当にありがとう』そんな風に言うマーガレットは、やはりとても大人になったと思うのだった。

明日は、アイリスの運転で、てっちゃんとマーガレットを送って、山梨へ行く。
てっちゃんのあどけない笑顔も、無垢な瞳も、ちいさな手も足も、抱っこしたときのぬくもりのあるやわらかな重みも、もう、この手を離れていってしまうと思うと、寂しくて今から涙ぐんでしまうわたしなのだった。

わたしたち、家族みんなが、てっちゃんの存在に、そして、マーガレットとてっちゃんの親子の絆に、癒されていたことに、改めて気づかされるのだった。

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2009.07.04 Sat l 日々の想い l COM(10) TB(0) l top ▲
「夏への扉」という、素敵な名前のお店がある。
そのお店を見つけたのは10年ほど前の夏のこと、
わたしは青梅駅裏の小さな路地を抜けて、丘陵地帯へ続く坂道を登っていた。
青梅線の線路を越える橋の傍らに古びたそのお店はあった。
「夏への扉」という店の名前がとっても素敵だと思った。
黒猫の絵が描かれた大きな看板がかかっていて、何だか物語が始まりそう…と思った。
その時は早朝でお店は開いていなかったが、あんまり古ぼけた感じだったから、もう営業していないのかなとも思った。
もし、まだ、営業しているのなら、いつか行ってみたいと思いつつ、そのまま記憶の片隅に埋もれてしまった。
それでも、夏が来る度に、そのお店の事を思い出していた。
青梅の駅は、奥多摩の山へ向かう中継点だった。
何度となく奥多摩の山へ向かいながらも、わたしが青梅駅にる事はなかったのだった。
あまりに近くで、いつでも行けるとそう思っていたから、かえって遠のいてしまったのかもしれない。
これが旅の途中で巡り会った遠い街なら、わたしは迷わず降りて探険していた事だろう。

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そんなわたしが、夏への扉に辿り着くにはちょっとした偶然が重なったのだった。
まず一つ目の偶然は、友人が「夏への扉」と言う本を古本屋で見つけて購入したと聞いた事だった。まだ、読み始めたばかりだけれど、主人公は、ビートという黒猫を飼っているのだという。
『夏への扉』 『黒猫』…そう聞いた途端、古い記憶が蘇った。
あの時、行って見たいと思ったワクワクした気持ちまで鮮明に蘇ったのだった。
もう一つの偶然は、用事があって青梅駅まで早朝に出かけた事だった。
てっちゃんのお宮参りをする神社の下見をしてこようと、わたしは10年ぶりに青梅の駅に降りたのだった。
少しは大きな建物やマンションは出来たけれど青梅の路地裏は10年前と変わらない佇まいだった。わたしは懐かしさいっぱいで歩き始めた。
そしてなんと、遠い記憶を手繰り寄せ、夏への扉が、あの日と同じように坂道の途中に建っていたのだ。
早朝なので、お店の入り口には準備中の札がかかっていた。
と言うことは、まだ、営業されていると言うことなのだと思った。
お店の出窓の下には白いドクダミノ花が涼しげな朝の風に揺れ、古びた壁には艶やかな緑の蔦が這っていた。
わたしは、どきどきしていた。もう、これは、訪れるしかないと思った。
この日はこのまま帰ったが、日を改めて、もう一度訪れようと心に決めた。
そして、次の週、わたしの想いは叶ったのだった。(次回へ続く)

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2009.07.04 Sat l 日々の想い l COM(0) TB(0) l top ▲