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お誕生日のカツラに逢いたくて、出かけた。

里にはキバナコスモスの明るいオレンジ色が咲き始めた薄紅色のコスモスと、
おおらかなダリアの真紅の彩が、彼岸花の炎のような朱色と競い合っていた。

わたしは、9月って夏と秋の狭間で、ひそやかな情熱を秘めた季節なのかも知れないと思った。

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深い森が息づく日原の谷の奥の奥に、人知れず力強く生き続けている巨樹がいる。
わたしは、このカツラの樹が好きだ。時々、逢いたいと思ってしまう。

いままで、季節ごとのカツラに逢いに行った。
11月、散り敷いた枯れ葉色に包まれたカツラ、早春の名残り雪の中のカツラ、
4月の芽吹きの頃のカツラ、6月の雨樹の森のカツラ、
そして、まだ見ぬ、9月のカツラに逢ってみたい。錦秋のカツラには、まだ早いだろうけれど、少しは色づき始めているかもしれなかった。

わたしにとって長沢谷のカツラは永遠の憧れなのだった。

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風薫る5月…。ニセアカシアの白い花が、甘く優しく香っていたアカシア橋を越えていく。
今日は、秋色のシュウカイドウの花咲く道…朝陽に透けて花びらが輝く。

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ひとつ、ひとつ、小さな薄紅色の明かりが灯っている様で、可愛くて、わたしは立ち止まって何枚も撮ってしまった。

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     薄紅の火影のごとき秋海棠 君に憧るる想い見つめり

まだ、朝露に濡れた草むらに、そっと足を踏み入れれば、小さく見つめる青い瞳はつゆ草の花。
しめやかに朝へのくぐり戸を開いてくれていた。
「おはよう…今朝も、涼やかな瞳をありがとう。」思わずそっと語りかける。

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    清らかに朝露おきて碧なす つゆ草そよぐ野道辿らん


懐かしい稲村岩が見下ろす山里にさしかかれば、あの日と同じ、薄紫の紫苑の花咲く…
優しげな面影が滲むような、その花色の薄紫が、ゆかしくて立ち止まる。
あの日は、たくさんのセセリチョウが集まっていた花影に、今朝はヒョウモンチョウが舞っていた。

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    紫苑咲き蝶舞う里がゆかしくて 夢を語りし日々懐かしむ



そして、日原川を遡れば、絶え間ない瀬音がわたしを包んでくれる。
夏の日の瀬音よりも、繊細に聞こえるのは、涼やかな秋風のせいだろう。

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初秋の渓は、優しさを分かつように聞こえる…。

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そんな岸辺に佇むカツラの巨樹がいる。健やかに佇む姿が美しく天を目指す。
白波を蹴立てて流れる渓谷沿いに大きな岩を抱え込むようにして立っている。
長沢谷のカツラに辿り着く前に、ガニ沢のカツラを訪ねた。

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林道をはるかに辿れば、名栗沢という沢に至る。この沢を挟んで、沢の手前のガレ地と
上流部の樹林の中に、どちらも素晴らしく大きなトチノキがいる。

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ガレ地のトチノキは、豊に生い茂る枝葉で、幹や根元は見えない。
春先には甘い香りの白い花をたくさんつけて虫たちを招いていた。
木の上に花を付けるので咲いている姿を見るのは難しいけれど、ここのトチノキは、目線より低い位置にあるので崖の上からだとその花を良く見ることが出来るのだった。

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秋になると真っ先に色づくトチノキも、まだ、緑豊かだった。
ガレ場の草地には、こんもりとした富士アザミの花が、棘だらけの葉をまとって咲いていた。

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存在感があるその姿に、逞しさを感じる花だけれど、たくさんの蝶や蜂たちがひっきりなしに訪れては蜜を吸っていた。

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山には山の 憂いあり 海には海の 悲しみや
   まして心の 花園に 咲きしあざみの 花ならば
高嶺の百合の それよりも 秘めたる夢を 一筋に
   くれない燃ゆる その姿 あざみに深き わが思い…


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子供の頃、どこかで聞いたこの薊の歌の意味が良く分からなかったけれど今なら何だか分かる気がする。

何の花だろう、白い小さな花が咲いている。きれい。

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この白い花は、濃い紫の実がなるヨウシュヤマゴボウの花、可愛いいね。

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草の穂が日差しに輝く…

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小さな草地にも秋色の風…草の秋。そう呟いてカメラを向けた。

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他の木々よりも頭一つ抜きん出て聳えるトチノキがある。ここは鍛冶小屋窪といわれる沢。
林道からもはっきりとその姿が見える。傍まで登ればその偉大さに心揺らぐのだった。

林道からその姿を眺めつつ、通り過ぎてゆく、どうぞいつまでもそこに生きて…祈りにも似た思い。

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やがて唐松谷への登山道を分け、さらに林道を詰めれば、長沢谷への登山道に到着する。
ここにもフジアザミの花がたくさん咲いて、ミドリヒョウモンやセセリチョウが集まっていた。

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手をそっと差し伸べれば、翅が痛んだミドリヒョウモンが、ふわりと乗ってくれた。
「あなたは、ずいぶん翅が痛んでいるのね。がんばって飛んだのね。」思わずそんな言葉で話しかけてしまう。

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セキヤノアキノチョウジ、とっても長い名前のこの草は、絶え間なく風にそよいでいる。
その美しい青紫の花色がとても好きで、いつも立ち止まって見とれている。

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揺れる小さな花姿を写すのは難しい。緑をバックに写したくて何枚もシャッターを切った。

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上空の空は爽やかに晴れ渡り、森の中の草地には、清々しい秋風が吹いていた。
林道から覗き込めば、沢音が響き、木々の間越しに、深い谷を流れる川面が見える。

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ここから少し下って川岸に降り立てば、その先に、逢いたいカツラの樹が立っているのだ。
わたしは、胸がドキドキした。お誕生日に、逢いたかったカツラに逢うって、なんだか恋人に逢いに行く心境なんだもの。

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一筋に伸びる登山道を一気に下ってゆけば、ところどころにノコンギクの花が咲いている。

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早くも色づき始めた枝もあった。
やがて瀬音が近づき、明るく開けた渓谷が現れる。

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昨年の台風で流された丸木橋の変わりに、真新しい小さな橋が川に掛けられていた。
以前の橋は風雨にさらされいい味を出していたけれど、この小さな橋もいつの日か味わい深い渓流の橋となる事だろう。

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カツラの巨樹は、この川を離れてほんの少し登山道を登ったところに立っている。

この谷から大ダワを経て雲取山へと向かう登山者は、必ずこの巨樹の脇を通るのだ。
カツラの樹は、四季折々の姿で、往き帰りの登山者たちを見守っているような気がした。

わたしは橋を渡るのももどかしく、カツラの樹の根元へと駆け寄った。

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「こんにちは…逢いに来ました。あなたに、逢いたくて逢いにきたのよ…」と、語りかけながら。

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カツラの幹にそっと触れると、『よく来たね。』と言われた気がした。

『カツラの樹さん。子供たちのことを見守ってくださいね。』と、心の中で語りかけた。
なぜかな?わたしは、あなたにそう祈らずにはいられない…

すると、『だいじょうぶだよ。』と、言われた気がして、ホッと心が安らぐのだった。


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9月のカツラは、まだ青々とした夏の姿だったけれど、苔むした根元には、黄色く色づいた葉がパラパラと散っていた。

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『カツラの葉はね。うちわのような丸い葉だよ。秋には綺麗な黄色に染まるんだよ。覚えておくといい…。』

早春の森で、萌え出したばかりの、柔らかな黄緑色の小さな葉を見上げながら、あなたは教えてくれたのよ。

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覚えているかしら…。わたしは、いまでもありありと浮かんでくるわ。木漏れ日に透き通るような緑のそよぎを…。

「だから、カツラの樹がこんなに好きなのかもね…」と、そんな独り言を呟いてみる。

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夕べ降っていた雨の滴が溜まった葉っぱ。

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色づき始めた落ち葉を拾っていたら、ちいさなカエルさん。
タゴガエルかなぁ?手のひらに乗せたらじっとしている。一眼レフを片手で持ってシャッターを切る。

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木洩れ日の中で…「いのちの祈り」って、タイトルどうかしら?(笑)

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流れは本当に清らかで、その波に洗われた樹が水際に立っている。
まるで、ニンフのような立ち姿の樹や流れをまたぐように大きく曲ったミズナラの樹。

この谷には、美しい樹たちが息づいているのだった。

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澄んだ流れのほとりに座り、冷たい水に両手を浸せば、こころはいつも、純粋だった日々に戻っていくのだった。

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大小さまざまな石が流れの中に点在し、その濡れた岩の上には、真っ先に枝を離れて舞い降りたあわてんぼうの木の葉たちが思い思いの場所に下りていた。わたしは、微かな初秋の旅情を感じてカメラを向けた。

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この木の葉たちも、いつか波にさらわれて流離の旅に出るかもしれない。
今日見たこの景色は留まりはしないのだろう。

わたしは、ちょっぴり、感傷に浸りながら、まだ、夏の名残を残しているような緑の谷を歩いた。

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苔むした岩、朽木に生えたきのこ、雨水を溜めた落ち葉、緩やかにカーブする川…
去年の落ち葉に舞い降りた今年の一葉、木々の根元に咲いた名も知らぬ花。

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全てが何かを語りかける…わたしは、緑の谷に溶けてしまいそう…。

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帰り際、もう一度カツラの樹を振り返り、また、黄葉に燃える季節の再会を約束した。
そして落ち葉を並べて、サインを送り、わたしは、この谷を後にした。

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林道へでると、午後の木漏れ日に草原の薊が輝いていた。

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倒木にも日差し零れて…

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木々も照り輝く…

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セキヤノアキノチョウジの紫色
小さな、ハチは、こんな小さな花の中までも潜って蜜を集めるんだと知った。健気だなぁ…

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空は夏の名残りを微かに残しているような、秋の青い空、
夏の白い雲のような雲もどこか優しげな秋の雲、9月の空は夏と秋の行き会いの空だね。

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青空に崖の上のススキがそよぐ。

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日原の集落に降りてくると、光芒のなかに稲村岩が浮かび上がった。
「今度こそ、あの稲村岩に登るわ!待っていてね、稲村岩!」
わたしは、心の中で稲村岩に約束した。

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そして、わたしは防護壁に群れて咲くギボウシの花に別れを惜しんだ。
9月の空は暮れてゆく、思い出に残るお誕生日になったと思った。

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2008.10.09 Thu l 山と森 l COM(4) TB(0) l top ▲

コメント

すべてが・・秋色・・・
 花も葉っぱも秋ですね・・・

 常緑樹だけが、「みんな、秋になるなよ~」って、言ってるみたいな・・・

 
2008.10.11 Sat l びるげ. URL l 編集
びるげさんへ
びるげさん、こんばんわ(*^_^*)
いつもありがとうございます。奥多摩も日に日に秋色が濃くなっています。

今日の夕焼け空は美しかったですね。そして、今夜は煌々と照る月。
冷たい風が吹き抜けて、かなり冷え込んでいますね。
風邪をひかないように、気をつけてくださいね。
2008.10.11 Sat l sizuku. URL l 編集
いいね
並べた落ち葉の言葉は、
「またくるね」
でしょうか?

今回もSIZUKUさんとご一緒に山歩きしているような錯覚を受けました。
これで、流れる風を感じることができれば、すごくいいなあと思うのですが、温度感覚を養わないとね。

それと、創作童話を読ませていただきましたが、読後の安堵感に加えて、まだ見ぬ尾瀬への想いが別な意味で強くなりました。
どうもありがとうございました。
2008.10.12 Sun l エジちゃん. URL l 編集
エジちゃんへ
エジちゃん、こんにちわ(*^_^*)
今日は3連休最後の日ですが、昨日も休日出勤で、何だか少しお疲れモード。
せっかくの爽やかお天気ですが、家でゆっくりと家事をこなしていました。
ちょっと残念でもありますが…(^_^;)

ところで、落ち葉の言葉は…
ドリカムの“未来予想図”のサインです。

♪~いつもブレーキランプ、5回点滅
   ○○○○○のサイン~♪

ね!分かったでしょう?(*^_^*)
2008.10.13 Mon l sizuku. URL l 編集

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